コスタリカ紀行




軍隊を棄てた国コスタリカ紀行


  

*平和なスローライフ

 世界の就学前教育・保育制度は、その国の地勢、歴史、文化、人々の生活を反映していて、日本のこれからの国の形を考える上で大変参考になる。本情報2015NO3に世界の保育制度の概略を載せてあるが、今回は軍隊を棄てた国コスタリカの人々の考え方、保育制度から見える日本を取り上げたい。

 コスタリカが軍隊を棄てたのは1948年、自然と共生して生きる道を選択した世界でもまれな国である。1987年、時の首相がノーベル平和賞をもらったのも国民を挙げて平和に取り組み自然との共生を目指したところにある。平和憲法を掲げながら自衛隊を海外派遣する日本の平和観とは違い、軍備予算を教育や福祉、医療、自然保護に回して、自然と共に生きるスローライフを楽しむ国民である。スペインが植民地にしても益はないと手を引いたのは、その国民性と緯度10度で常夏でありながら高地10003000mという熱帯林、熱帯雲霧林、砂漠と多様な地形にある。その地形が今ではコーヒー栽培に適していて、コーヒー豆輸出によって経済を活性化させている。みなさんがスターバックスで飲むコーヒーもコスタリカ産、パイナップルも輸入量4位であることを考えると、日本人の生活に近い国ともいえよう。

 

*自然との共存

多様性の気候は、多様な生物の宝庫で、エコツーリズムに参加するとバルト海、太平洋沿岸ではウミガメの産卵が、自然を未来に伝えるために町以外は鋪装しないという地域では幻の鳥ケツァールやハチドリなど世界一といわれる野鳥群の観察が、川岸には多種のサルや野生動物、原生林や草原にはもろほ蝶やヘラクレス、ヤドクガエルなどの昆虫や生物生態系が見られ、また野草の宝庫でもある。

コスタリカには困窮者のための養護福祉施設等はあっても、日本のような保育所はない。教育は必要でも保育を必要とする子どもがいないからである。それは、子どもが育つために最もよいとされる拡大家族のつながりが密で、3歳までは親だけではなく祖父母や叔父叔母といった親族やその周辺の人々が一緒に子育てを手伝う環境がある。また、都会で親族が近くにいない場合は家政婦を頼み、自宅で保育をしてもらうといった、子どもにとっては日常が安定した環境が保障されている。それも人類にとっての自然の姿で、子育てはみんなの楽しみの一つなのである。日本の子育ての悩みは、単家族という閉鎖的環境に置かれ、両親とも産業構造に巻き込まれて、長時間労働に価値を置いている社会を映し出している。仕事の形を変えるには社会の価値観、社会の形を変えることだが、そこに至るには、基軸となる思想が必要だろうと思われる。           

*違いを尊重しあう教育

教育について、科学も算数も英語も国語も大事だが、最も大事なのは小さい時からのプレゼンテーション力であるとする。人はもともと違うという認識をもち困っている人を助ける、違いを尊重しあう国の国民意識は、臭いものに蓋をすることはない。明日できる仕事は明日やろうという思考様式は、失業に遭遇しても失業してよかった、新しい経験ができるという満足で受け止めるというストレスの少なさである。朝8時から午後5時までが仕事だが、5時過ぎに残る人は一人もいない。みんな家族とともに過ごす時間を大切にする。また、就労の場に子どもも参加できるシステムがあり、親子でホテルの仕事や農事、商売などいろいろな体験ができる、社会との接点が用意されている。

サン・ホセに深夜着いた翌日、レクチャーしてもらったフランセーラさんはまだ若い。一塊の教師とは思えない、大局的かつ論理的に教育を語れるあなたは何者?と質問すると、運営や教育内容を全面的に信頼し任されている担任で、大学をトップで卒業し、現場経験を積んでから再び大学院で学ぶ予定という。多様な経験と知を統合する本来の自己教育・生涯学習意識が根付いている。経済的な理由で公立園に行く子どももいるが、私立の方が環境の質も意識も高い。太陽光、電気、紙、水など生態学的プロジェクトは国民的なもので、園でも学校でも企業でも任意集団でもなされ、スキルに達することを誇りとして毎年アセスメントがなされている。給料は安くても子どもと暮らす仕事が好き、それに誇りをもっているという。それは浦安幼稚園・こども園の先生方の姿と重なる。日本のいじめ、青少年の荒れ、社会的な目を気にして自分の意見を言わない文化は、ストレスの顕在化といえなくもない。自然離れした日本の親子は、ストレスが高い毎日を過ごしているなあと実感する。

ガイドの川久保さんは、コスタリカの自然に魅せられ、現地で結婚して夫方の家族と永住した自分の両親と、医療制度が保障されたコスタリカで出産するため来訪した姉や姪たちと一緒に暮らしている。日本から永住してでも住みたい町。様々な課題を含みつつも、人間が人間らしく生きる地が、人々を惹きつけているのは間違いない。




日本教育学会ラウンドテ−ブルへのご案内
 第66回日本教育学会が、8月29日、30日に慶応義塾大学において開催されます。30日の16時〜18時、南校舎432教室で「幼児教育を読み解く『知』」をテ−マに、宮城学院女子大学の磯部裕子氏と一緒にラウンドテ−ブルを開きます。参加者にも提案者となっていただきみんなの討論によって、“幼児教育に知を構築するアプロ−チ”を考えたいと思います。学校教育法が改正され、学校の定義に人間の発達の順次性に基づいた幼稚園の位置づけが付与されはしたものの、年々、日本教育学会に参加する幼児教育者が減っているのではないという危惧もいだいております。もう一度原点にたってみなさんで“幼児教育に知を構築するアプロ−チ”を考えたいと思います。ぜひご参加くださり意見の輪に入って下さい。

2007.5.30
「食からひろがる保育の世界−みどりの森の食日記−」
 ひとなる書房が刊行されました。
仙台にみどりの森幼稚園があります。100年近い歴史を一旦閉じ、新たに出発した幼稚園ですが、自然、生活、子どもの遊びの中に食育が位置付いています。食と保育の関係を問い続けている実践が本になりました。ぜひ、読んでください。また、6月2日には、宮城学院大学でみどりの森幼稚園長小島芳氏、とこの本を編集した宮城学院大の磯部裕子氏、平本福子氏、青木も加わってシンポジ−ムが開かれます。テレビ放映もされるようですが、関心のある方は仙台までどうぞ。

2007.5.18
「知の探求シリ−ズ」第1巻『ナラティヴとしての保育学』刊行しました。
磯部裕子氏、山内紀明氏のシャ−プな切り口で、保育学がどのように物語られてきたか、またこれから何を考えていけばいいのか、示唆に富んだ内容が満載です。
2007.4.28
「知の探求シリ−ズ」第2巻『教育臨床への挑戦』刊行しました。

 2年がかりで、取り組んできた第2巻『教育臨床への挑戦』が発売になりました。幼稚園の先生方の本は易しくという常識への挑戦で、ちょっと難しいと言われることを覚悟で監修しています。まもなく磯部さん・山内さんの第1巻、続いて青木・浅井さんの第3巻も出る予定です。難しいとは、自分の枠にない情報を受けとめることを言うので、新しい情報を受けとめ自分流に使えるようになると、これほど面白く、自己拡大する実感を味わえることはありません。分かった範囲の言葉で暮らすのは楽なようですが、自分を語る言葉に行き詰まり、苦しいものです。今までの自分が変容したとき、学んだといえるのではないでしょうか。ぜひ手にとって読んでみて下さい。
   青木久子著
   「知の探求シリ−ズ第2巻、教育臨床への挑戦」萌文書林 2007

2007.4.3  南イタリアの旅報告
 3月21日から南イタリアを回ってきました。毎年のことながら自立した方々との日本脱出は、楽しい時間です。バ−リの幼稚園、アルベロベッロの幼稚園、そしてシチリア島パレルモの幼稚園・小学校見学は、今までのフレネ学校やレッジョ・エミリア、ヤ−スヤナ・ポリャ−ナなどの歴史的に優れた教育実践現場への視察と違って、南部地域の子どもの日常を見ることが出来、考えさせられることが多くありました。一つは戸外での遊びの時間がないこと、もちろん屋外の遊び環境もありませんでした。こうした屋外活動は家庭が担う役割となっています。12時には降園(13時までの子どもには給食があります。)するので、幼稚園は就学前の教育を担うことが明確になっているのだろうと思います。一人の教員につき10名の園児で統合保育です。障害の程度によっては、カウンセラ−やサポ−ト役も入ります。また、英語、音楽、宗教などの専任講師も入っています。例年、ヨ−ロッパに行くと3月は復活祭の催しに関する活動が多いのですが、詩や劇の他、塗り絵を宗教教材としていたのが特徴的でした。レッジョ・エミリアでは考えられないだろうという造形表現です。しかし、プロジェクトのテ−マに対する担任の考え方や自分の実践に対する主張は明確で、一人一人が積極的に自分を語る姿は日本ではなかなか見られないものです。日本の保育界も、長時間保育になるにつれ環境が悪くなっていますが、長時間保育を実践するためには施設・自然環境や人的環境、5歳児のプロジェクトテ−マなど、工夫、研究が必要なことを痛感しています。
 アルベロベッロのトウルッリ、ポンペイの遺跡、マテ−ラの洞穴、アグリジェントのギリシャ神殿等、ユネスコ世界遺産を4ヶ所巡ることもできました。日常がこうしたギリシャ、ロ−マの遺産と共にある暮らしです。土日だけでなく毎日が12時から15時には店も閉まるというスロ−ライフを実践している人々だからこそ、生きる意味を問う時間がゆったりと流れるのだうと思います。路上駐車された狭い道を切り抜ける優れた運転技術がないとイタリアの都市部では暮らせないだろうし、高齢になっても足腰がしっかりしていなければ高い崖に立つ城塞都市にも住めないだろうし、と思うのですが、それでもスロ−ライフを選択してギリシャ、ロ−マ、ビザンチン、アラブの融合した遺産を引き継いでいく民族の力に、生のたくましさを感じます。

2007.2.9 経過報告
 1年余、この情報ペ−ジの更新を怠ってしまいました。お詫びします。AEERの研修会冊子を発行し5冊目までいったところで、「知の探求シリ−ズ20巻」の監修の運びになり、そこに専念しながら、全国の研修支援を行っているところです。近況(あまりにも多いのでここ3ヶ月の情報)からいろいろな園の研修状況をお知らせします。
○恵庭幼稚園の研修
 1月には、北海道の恵庭幼稚園の教頭井内さんほか教員全員が、船橋の健伸幼稚園と学芸大附属幼稚園、国立音大附属幼稚園に研修にこられました。もう3年になります。毎年、継続して同じ場所から学ぶことにより、自分たちの理念・保育をつくりあげる努力をしています。討議内容も年々、本質的なものになってきました。教育内容を基本に立ち返って見直し、井戸を掘り、樹木を植え、畑や花壇を作り、自然環境を整備するとともに、保護者とのつながり、学習も確実に進めているようで、うれしいかぎりです。
○瑞祥幼稚園の研修
 北海道の研修会に伺った折り、瑞祥幼稚園の先生方も参加してくださり、その後、電話で保育について語る機会があったのですが、何か物足りない、もっと改善できることがあるのではないかという問題意識をもって、今年は坂野由子園長・教員全員が国立音大附属幼稚園の見学とAEERの学習会を設けました。士別という遠い地からの偶然の来訪者の熱意に、頭が下がります。教育課程、指導計画、保育のドキュメンテ−ションなどの資料も携えて、今後、どう見直し改善をしていくか、熱心に討議しました。これからの瑞祥幼稚園の幼児教育が充実することでしょう。ともかく先生方に考える力と行動する力があり、感心しました。
○港区立南山幼稚園
 幼小関連の研究を2年がかりで進めています。六本木ヒルズの隣の学校で幼稚園は2学級という小規模でずか、かつて生活科の授業の先導試行を一緒にしていただいた茂木園長の熱心な支えがあり、幼小協力して研究しています。発表までまだ1年ありますが、幼小の接続はこれからの大きな課題ですので、製靴を期待したいと思います。
○静岡聖光幼稚園
 静岡県私学の研修体系は整っていて、その一つに各園を教育課程研究校として指定する制度があります。2年継続の研究指定で、教育課程の改善と保育の充実を目的に、研究紀要をつくり、発表がなされるシステムで、今年から2年間で、「遊びの充実」を研究テ−マとして実践しています。石井園長のリ−ダ−シップがあり、教員も熱心に遊び環境の整備と、日頃、な逃げなくやっていた保育の意味の問い直しに取り組んでいます。
○仙台みどりの森幼稚園
 100年近い伝統園を一度は閉園し、復活を果たしたみどりの森幼稚園は、6年で自主公開研究会を開催するまでになりました。宮城学院女子大の磯部裕子氏との小島園長との産学協同とでもいいましょうか。公開研には、これからの保育実践を考えたい若者たちが集まり、夜まで熱心に討議が続きました。その一つの保育実践として「食育」の問題を扱った本が近々発行される予定だそうです。こうした地域から産まれる学習会こそ、本当の学習会で、次代の若者に夢と希望を与えることでしょう。
○学芸大学附属幼稚園&お茶の水女子大学附属幼稚園
 国立大学附属幼稚園は、毎年研究テ−マをもって研究を推進していますが、今年、学芸大学附属幼稚園は、「学びをつむぐ生活づくり−自然環境の見直しから−」というテ−マで、研究を進め、10月28日、公開研究会を開催しました。学芸の森プロジェクト、アヒル池プロジェクト、稲作プロジェクト、と子どもと大学と地域とが一体となった取り組みは、幼稚園の5歳児の発達に即したカリキュラムのありようと、これからの地域ネットワ−クのあり方を考えさせるものです。年度末には研究成果が冊子になって発行されるのではないかと思います。学ぶことの多い研究になっています。
 お茶の水女子大学附属幼稚園も、今年は130年の伝統を生かしつつ、新たな試みを行っています。2月22日、23日には幼小関連の公開研究会が予定されています。
○北区・聖美幼稚園
 私が聖美幼稚園に伺って3年目になります。環境はとても恵まれている幼稚園ですが、もっと園舎の反対側にある森を生かして保育内容を組み立てたいという課題意識から、遊び、生活、自然とのかかわり、行事、表現などを見直してしました。年々、子どもの活力が盛んになってきて、先生たちを突き上げるほどになり、うれしい悲鳴をあげています。赤木園長の人徳でしょうか。教員が自発的に研究を推進し、事例の読みとりや実践の反省記録も丁寧に書いていて、考察に考え方・思想が入るようになりました。3年でこんなに質的転換が図られるとは、凄いの一言です。
○世田谷区立塚戸幼稚園
 教え子が転園したきっかけから、保護者会と教員研修会に呼ばれて伺い、懐かしい古川教頭に出会いました。彼女とは私が東京都に居る頃、研究協力校でご一緒していたのです。そこで今年の研究主任の若い三宅さんに出会い、さわやかな若者を研究主任にして経験者も共に学び合う環境が用意されていることをうれしく思いました。なかなかの人物で、大きく育って欲しいと願わずにはいられません。
○大塚聾学校&水戸聾学校
 聾教育の先生方と一緒に学ぶようになって、考えさせられることが多くあります。一つは日本の聾教育が具体から抽象へ、直観から概念へといった発達過程より言語獲得を最たるものにしてきた歴史です。これからの大きな研究課題でしょう。それとともに、保護者の熱心さ、教育への協力的態度、教師の努力、文字環境の作り方など、一般の幼稚園で学ばせていただくことが山のようにあります。言葉の支援と遊びを融合させた教育への試行がいつか実を結ぶのではないかと思っています。
○国立音楽大学附属幼稚園
 毎年、公開研究会を実施していますが、今年も子どもに学ばせていただくことが多い研究会でした。子どもが主体になる生活、遊び、そのなかにある芸術表現が今年のテ−マでしたが、サ−ビス業化した幼稚園界では、保護者に子どもの意志を培う教育を理解していただくことは並大抵のことではありません。参観者は、そこに注目し、5歳児との対話も子どもの答えに感心していただき、共感していただいたのですが。
 
 1月は、実践研究発表会も多く、まだまだ、多くの現場の先生方と学習する機会をいただいておりますが、やはり実践を論理構築することが課題でしょうか。あれをやった、ことれをやったという段階から、もう一歩進むために「知の探求シリ−ズ」が参考になることを願っています。